「ロコモティブシンドローム(ロコモ)」と聞くと、多くの人は高齢者の問題だと考えがちです。しかし、近年、子どもたちの間で運動能力の低下や運動器の不調を抱える「子どもロコモ」が深刻化しています。
そして、この子どもロコモの背景には、現代の子どもたちの「姿勢の悪化」が深く関わっていることをご存知でしょうか。
子どもロコモとは何か?その兆候
子どもロコモは、特定の診断名ではありませんが、以下のような状態を指します。
- 運動能力の低下: 走る、跳ぶ、投げる、片足立ち、しゃがむなどが苦手。
- 運動器の痛みや不調: 首、肩、腰、膝などに、原因不明の痛みを訴える。
- バランス能力の低下: つまずきやすい、転倒しやすい。
- 体力の低下: 少しの運動で疲れる、集中力が続かない。
- そして、これらと密接に関わるのが姿勢の悪化です。
子どもの姿勢の悪化は、単なる見た目の問題ではありません。身体機能の基盤を揺るがし、将来的な健康問題に直結する可能性を秘めているのです。
なぜ「姿勢の悪化」が子どもロコモを招くのか?
現代の子どもたちの姿勢が悪化する主な要因と、それが子どもロコモにつながるメカニズムは以下の通りです。
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デジタルデバイスの長時間使用と「スマホ首」「猫背」
スマートフォンやタブレット、ゲーム機の普及により、子どもたちは画面を覗き込むように長時間過ごすことが増えました。この姿勢は、頭が前に突き出し、首の骨が真っすぐになる**「スマホ首(ストレートネック)」を引き起こします。また、背中が丸まる「猫背」も常態化しやすくなります。-
影響: 首や肩の筋肉に過度な負担がかかり、慢性的な痛みや凝りを引き起こします。視線が下がることで視野が狭まり、バランス感覚の低下にもつながります。さらに、猫背は胸郭を圧迫し、呼吸が浅くなることで、疲れやすさや集中力の低下を招きます。
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影響: 首や肩の筋肉に過度な負担がかかり、慢性的な痛みや凝りを引き起こします。視線が下がることで視野が狭まり、バランス感覚の低下にもつながります。さらに、猫背は胸郭を圧迫し、呼吸が浅くなることで、疲れやすさや集中力の低下を招きます。
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座りっぱなしの生活と「骨盤の歪み」「反り腰」
学習塾、習い事、オンライン授業などで、子どもたちが座って過ごす時間は驚くほど長くなっています。不適切な座り方(仙骨座り、横座り、足を組むなど)が習慣化すると、骨盤が歪み、本来S字カーブを描くべき背骨のバランスが崩れます。特に、お腹を突き出すような「反り腰」は、体幹の筋肉が弱い子どもに多く見られます。-
影響: 骨盤の歪みは、股関節や膝関節に不均等な負担をかけ、歩行や運動時の体の使い方が不自然になります。反り腰は腰痛の原因となるだけでなく、体幹の不安定さから全身の運動パフォーマンスを低下させます。
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影響: 骨盤の歪みは、股関節や膝関節に不均等な負担をかけ、歩行や運動時の体の使い方が不自然になります。反り腰は腰痛の原因となるだけでなく、体幹の不安定さから全身の運動パフォーマンスを低下させます。
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運動不足による「姿勢維持筋」の衰え
子どもたちの外遊びの機会が減り、体を動かす機会が減少しています。これにより、姿勢を支えるために重要な体幹の筋肉(腹筋、背筋、お尻の筋肉など)が十分に発達せず、衰えてしまいます。- 影響: 姿勢を正しい位置に保つ力が弱くなるため、重力に負けて体が歪んでいきます。筋肉の柔軟性も失われるため、たとえ良い姿勢を意識しても、それを長時間維持することが困難になります。これは、運動能力の低下に直結し、子どもロコモを進行させる最も大きな要因の一つです。
「姿勢の悪化」が招く、子どもロコモの連鎖
姿勢の悪化は、単独の問題ではありません。それは、以下のような負の連鎖を引き起こし、子どもロコモを加速させます。
- 姿勢が悪くなる → 特定の筋肉に負担がかかる → 痛みや凝りが発生する
- 痛みや不調 → 運動するのが億劫になる → さらに運動不足になる
- 運動不足 → 姿勢を支える筋肉が衰える → さらに姿勢が悪くなる
この悪循環が、子どもの運動能力を奪い、将来の健康を脅かす「子どもロコモ」の状態を招いているのです。
子どもロコモと姿勢を守るために、家庭でできること
子どもロコモの予防・改善には、家庭での意識的な取り組みが不可欠です。
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「運動遊び」の機会を増やす: 公園で鬼ごっこ、縄跳び、ボール遊びなど、自由に体を動かす時間を意識的に作りましょう。特別な運動でなくても、全身を使う「遊び」が重要です。
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デジタルデバイスの利用ルールを明確に: 使用時間を制限し、使用する際は画面と目の距離を適切に保ち、定期的に休憩を挟むように促しましょう。
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「良い姿勢」の意識付けと実践: 座る時、立つ時、歩く時、常に頭のてっぺんから糸で引っ張られているようなイメージで背筋を伸ばすように声かけをしましょう。親自身も良い姿勢を心がけ、子どもの良いモデルとなることが大切です。椅子の高さや机の位置が適切かどうかも確認しましょう。
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体幹を鍛える簡単な運動を取り入れる: プランクやブリッジなど、自宅で手軽にできる体幹トレーニングを親子で一緒にやってみるのも良いでしょう。
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バランスの取れた食事: 骨や筋肉の成長に必要なタンパク質、カルシウム、ビタミンDなどをしっかり摂れるよう、栄養バランスの取れた食事を心がけましょう。
子どもたちの未来は、彼らの身体が健全に発達するかにかかっています。「姿勢の悪化」というサインを見逃さず、子どもロコモの芽を摘み取り、健やかな成長をサポートしていきましょう。